その咳、見逃さないで!
肺炎が潜んでいるかも…
~犬や猫の「肺炎」は、見た目以上に深刻なこともあります~
「咳が長引いている」
「呼吸が浅く、苦しそうに見える」
「食欲が落ちて、元気もない」
それは、呼吸器の異常を知らせるサインかもしれません。とくに注意したいのが、「肺炎(はいえん)」です。
肺炎とは、肺胞や細気管支に炎症が起きて、呼吸機能が低下している状態を指します。
初期には軽い咳や発熱など“風邪”のように見えることもありますが、進行すれば低酸素状態や二次感染を引き起こし、命に関わるケースもあります。
肺炎の主な原因と分類
肺炎は原因によって分類され、それぞれ治療方針が異なります。代表的なものを以下にご紹介します。
感染性肺炎
ウイルスや細菌が肺組織に侵入し、炎症を引き起こすものです。 よく見られる起因微生物には以下が含まれます。
- 犬…ボルデテラ属菌、マイコプラズマ、犬パラインフルエンザウイルス、犬アデノウイルス2型など
- 猫…猫カリシウイルス、ヘルペスウイルス、マイコプラズマ属菌など
ウイルス感染から二次的に細菌感染が起こる「混合感染」も多く見られます。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
食べ物や胃液などが気管に誤って入ることで起こる肺炎です。
高齢動物や神経疾患(咽頭麻痺・喉頭麻痺など)のある動物では、嚥下反射の低下によりリスクが高まります。麻酔後や胃拡張・胃捻転後の誤嚥にも注意が必要です。
真菌性肺炎
アスペルギルスやクリプトコッカスなどの環境中の真菌(カビ)による感染が原因です。発症頻度は低いですが、免疫抑制状態(長期ステロイド使用、免疫不全など)の動物では重症化することもあります。
その他
- 寄生虫性肺炎(肺虫など)
- アレルギー性肺疾患(好酸球性肺炎など)
- 異物吸引(吸引性肺炎) など、まれな原因も報告されています。
よく見られる症状
肺炎は症状のバリエーションが広く、進行スピードも個体差があります。以下のような症状が見られたら、早期の診察をおすすめします。
- 咳(乾いた咳/湿った痰を伴う咳)
- 努力呼吸(胸や腹部を大きく動かす)
- 頻呼吸(呼吸数が増える)
- チアノーゼ(舌や粘膜が紫色になる)
- 食欲不振・元気消失・発熱
- 体温の低下(重度の場合)
重症例では、肺水腫や低酸素血症により呼吸不全に陥ることもあります。
検査と診断
肺炎の正確な診断には、以下のような検査を組み合わせます。
身体検査・聴診
肺の雑音を聴取し、呼吸状態を観察します。
胸部X線検査
肺野に見られる浸潤影、気管支壁の肥厚、区域性の肺不透過像などを確認します。典型的な誤嚥性肺炎では、右中肺葉の異常がよく見られます。
血液検査
炎症マーカー(白血球増加・CRPの上昇)、脱水、電解質異常などを評価します。
必要に応じて
- 動脈血ガス分析(酸素化の評価)
- 気管洗浄液の細菌培養・感受性試験
- 胸部超音波(胸水の有無)
- 猫ではFeLV・FIVのチェックも推奨されます
治療
肺炎の治療は原因の除去+呼吸のサポート+全身管理の3本柱で行われます。
感染が原因の場合
- 抗生物質(広域→培養結果に応じて変更)
- 抗ウイルス薬は限られた症例で使用
- 真菌性肺炎では抗真菌薬(イトラコナゾール、フルコナゾールなど)
呼吸管理
- 酸素吸入(必要に応じて酸素室・カニューレ)
- ネブライザー療法(薬剤の局所吸入)
- 重症例ではICU管理や人工換気が必要になることも
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支持療法
- 点滴(脱水補正、電解質バランス)
- 栄養管理(経口摂取が困難な場合は経鼻・経食道チューブ)
- 対症療法(解熱薬、鎮咳薬は慎重に)
飼い主さまへ
肺炎は、初期症状が軽くても急速に進行することがある病気です。
動物たちは、つらさや息苦しさを言葉で伝えることができません。だからこそ、咳・呼吸の異常・元気や食欲の低下など、「いつもと違う」サインにいち早く気づいてあげることが大切です。
とくに子犬・子猫、シニア、持病を抱えている子は、免疫力が弱く肺炎が重症化しやすい傾向があります。「ただの風邪かな」と思わず、少しでも気になることがあればお早めにご相談ください。
まとめ
- 肺炎は命に関わる呼吸器疾患で、早期発見・早期治療が重要です
- 原因は感染・誤嚥・真菌などさまざまで、検査と診断が必要です
- 呼吸状態が悪化する前に、適切な治療とケアを行うことが、回復への近道です
私たち動物病院では、呼吸器疾患に対する診断・治療・集中ケア体制を整えています。どんな小さな症状でも、お気軽にご相談ください。

