ユウ動物病院
Hematology

血液科

血液科

IMHA(免疫介在性溶血性貧血)とIMTP(免疫介在性血小板減少症)について

IMHA(免疫介在性溶血性貧血)とIMTP(免疫介在性血小板減少症)は、犬や猫に発症する自己免疫疾患です。本来、体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の体の正常な細胞を攻撃してしまうことで起こります。

IMHAでは赤血球が、IMTPでは血小板が標的となり、それぞれが破壊されてしまうため、重篤な貧血や出血傾向を引き起こし、命に関わることもある重大な疾患です。

しかし、早期発見と適切な治療によって、病状をコントロールし、愛するペットの生活の質を維持することが可能です。

IMHA(免疫介在性溶血性貧血)の主な症状

IMHAでは、赤血球が破壊されることで酸素を運ぶ能力が低下し、全身にさまざまな症状が現れます。

全身の倦怠感・活力低下

いつもより元気がなく、散歩を嫌がる、すぐに座り込むなど、活動性の低下が見られます。

粘膜の蒼白

歯茎や舌、目の結膜といった粘膜が、健康な状態よりも白っぽくなることがあります。

暗赤色・茶色の尿

破壊された赤血球から放出されるヘモグロビンが尿中に排出されることで、尿の色が濃く変化することがあります。これはヘモグロビン尿と呼ばれ、IMHAに特徴的な症状の一つです。

黄疸

赤血球が破壊される際に生じるビリルビンが体内に蓄積することで、目の白い部分(結膜)や歯茎、皮膚などが黄色く変色します。

食欲不振

食欲が低下し、ご飯を食べたがらなくなることがあります。

息切れ・速い呼吸(頻呼吸)

貧血により酸素不足になるため、少しの運動でも呼吸が荒くなったり、安静時でも呼吸が速くなったりします。

IMTP(免疫介在性血小板減少症)の主な症状

IMTPでは、止血に必要な血小板が破壊されることで、出血しやすくなったり、出血が止まりにくくなったりします。

皮膚や粘膜の点状出血・紫斑

最も特徴的な症状で、毛の薄い部分や皮膚、歯茎などに、赤い小さな点(点状出血)や、より大きなあざのような斑点(紫斑)が現れます。

鼻血・歯ぐきからの出血

突然、鼻血が出たり、歯磨きや硬いものを食べた際に歯茎から出血しやすくなります。

消化管出血

便に鮮血が混じったり、黒いタール状の便(メレナ)が出たりすることがあります。これは、消化管内で出血が起こっているサインです。

元気消失・活動性低下

重度の出血がある場合や貧血を併発している場合、元気がなくなり、活動性が低下します。

眼の出血

眼の白い部分に赤い出血(結膜下出血)が見られることもあります。

検査について

正確な診断と適切な治療計画を立てるためには、複数の検査を組み合わせて行います。

1血液検査

貧血の程度を評価します。IMTPでは血小板数が著しく減少していることを確認します。

顕微鏡で血液を直接観察し、溶血(赤血球の破壊)の兆候(球状赤血球の増加など)や、異常な血小板の形状・分布を確認します。

凝集試験(スライド凝集試験)

IMHAで特徴的に見られる、赤血球が自己抗体によって塊になる現象(自己凝集)を確認します。

肝臓や腎臓の機能、電解質、血糖値などを評価し、全身状態の把握や、他の基礎疾患の有無を確認します。IMHAの場合、溶血によりビリルビン値が上昇することがよくあります。

2免疫学的検査

クームス試験(直接クームス試験)

赤血球の表面に自己抗体が結合しているかを調べる検査です。

3画像検査

超音波検査・X線検査

脾臓やリンパ節の腫大、肝臓の異常など、基礎疾患や合併症の有無を確認するために行います。これにより、腫瘍や感染症など、他の原因による血液疾患を除外することもできます。

治療方法について

IMHA・IMTPの治療は、異常な免疫反応を抑制し、破壊されている血液成分を保護することに重点が置かれます。飼い主さまと獣医師が密に連携し、動物の状態に合わせて複数の治療法を組み合わせて行います。

1免疫抑制療法

ステロイド(プレドニゾロンなど)

最も基本的な治療薬であり、強力な免疫抑制作用によって過剰な免疫反応を抑え、赤血球や血小板の破壊を阻止します。通常、高用量から開始し、状態が安定したら徐々に減量していきます。

免疫抑制剤の追加

ステロイド単独では効果が不十分な場合や、ステロイドの副作用を軽減したい場合に、シクロスポリン、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルなどの別の免疫抑制剤を併用することがあります。

2輸血

IMHAの場合(赤血球輸血)

重度の貧血により命の危険がある場合、酸素運搬能力を改善するために赤血球輸血を行います。これはあくまで対症療法であり、根本的な治療ではありませんが、命をつなぐために非常に重要です。

IMTPの場合(血小板輸血)

犬や猫の血小板輸血は技術的に難しく、一般的な治療法ではありません。そのため、IMTPでは出血を防ぐための治療と、血小板の産生を促すための治療が中心となります。

3抗凝固療法(IMHAの場合)

IMHAの患者は、溶血によって血栓(血の塊)ができやすい状態になることがあります。肺血栓塞栓症などの重篤な合併症を防ぐため、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血栓薬を予防的に使用することがあります。

4支持療法

酸素療法

重度の貧血による呼吸困難を軽減し、全身への酸素供給を助けます。

点滴療法

脱水状態の改善、電解質バランスの調整、内臓への負担軽減、薬剤の投与経路として行われます。

消化管保護剤

ステロイドの副作用として胃腸障害が起こることがあるため、胃酸分泌抑制剤などを併用することがあります。

最後に

IMHA・IMTPは、自己免疫性という複雑な背景を持つ病気ですが、適切な検査と、長期にわたる根気強い治療で管理することが十分に可能です。

愛する家族の「なんだかいつもと違うな」というサインは、もしかしたらこれらの病気の始まりかもしれません。早期に気づき、すぐに動物病院を受診することが、彼らの命と健康を守るための最も重要な一歩となります。

ご不明な点やご不安なことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。